真顔日記

上田啓太のブログ

吉岡実『うまやはし日記』

中原昌也作業日誌』がKindle Unlimitedに入っていたので読み返している。およそ三年半の日記。なんだかんだで読むのは四、五回目になる。種田山頭火の日記も読み進めている。乞食(こつじき)をしながらの旅の記録で、その日の宿の感想をよく書いている。

日記らしい日記を書いてみようと思って、色々と文学者の日記を参考に見ているのだが、文章面でいちばんエキサイトしたのは、吉岡実の『うまやはし日記』。あとがきに記された成立過程が面白い。元になったのは1938年から1940年にかけての日記で、それを1980年、『現代詩手帖』に掲載するために、

戦前の「日記」二冊が消失をまぬかれて残った。(中略)冗長な記述を簡明にし、ここに収録する。

さらにこれが、1990年に単行本となるのだが、そこでは1980年の原稿に対して、

省略したきわめて「私的事項」を拾い出して、挿入してゆくうち、思わずも熱が入り、八十余枚の原稿に成ってしまった。

ということで、二十歳前後で記した日記に、吉岡実本人が四十年後および五十年後に二度、大きく手を入れた文章となっている。「冗長な記述を簡明にし」とあっさり書かれているが、本当に「簡明」が徹底されていて、ものすごく面白かった。簡明の徹底は、不思議と迫力を生む。