真顔日記

上田啓太のブログ

パーフェクトな酔っぱらい

先日、大阪の十三(じゅうそう)に行ったときのこと。

十三というのはいわゆる飲み屋街で、駅前に大衆居酒屋がたくさんあるんだが、一人で駅前を歩いていたとき、典型的な酔っぱらいサラリーマンを見かけて、すごく良かった。私は典型的なものを見るとテンションが上がってしまうたちだから、典型的な酔っぱらいなんかも大好物なのである。

二人組の中年サラリーマンだった。なかよく肩を組んで、歌を歌いながら、千鳥足で歩いている。これは思わず年号を確認したくなる事態でしょう。昭和か?

歌っている曲は、アリスの『遠くで汽笛を聞きながら』。サビの「なにもいいことがなかった」という部分を、大きく声を張りあげて、すべての音程を外しながら歌っている。選曲も最高だし、歌詞も最高だし、まったく歌えてないところも最高。こうした情景を見られただけでも、わざわざ十三まで出てきた甲斐があったと思う。

だから帰りの電車でも、「あんな典型的な酔っぱらいがいるなんて! 本当にいるなんて! あれはもはや酔っぱらいという概念じゃないか!」と興奮していたんだが、十分ほど過ぎた頃には、「頭にネクタイ巻いててほしかったな」と思った。

頭にネクタイを巻いた状態で歌っていたら、文句なしの百点だった。昭和の酔っぱらいとして完璧だった。あれだけ典型的に酔っぱらっていながら、なぜ、ネクタイを巻いていなかったのか。

しかし、それは強欲というもの。見知らぬ乗客たちに囲まれながら、私はみずからの強欲をひとりで恥じていた。あれだけのものを見ておきながら、おまえはネクタイまで求めるのかと。