千歳飴に熱狂する女

「もうすぐ七五三なんだ!」

近所のスーパーで31歳女性が言った。さっきまでデザートコーナーを凝視していたはずなのに、一体なにが起こったのか。

31歳の目線の先にはワッフルがあった。ワッフルの袋には「七五三キャンペーン」などと書かれたシールが貼ってある。

「七五三とワッフル関係ないよね! わけわかんないねコレ!」

31歳はそう言いつつも妙にテンションが上がっていた。口元には例のごとく前歯がのぞいていた。嬉しいときに出るタイプの前歯だった。嬉しいときの前歯は、上唇がめくれて豪快に出るのだ。

「千歳飴おいしかったよねえ!」

31歳はそう続けた。テンションが上がっている理由はこれだった。千歳飴のことを思い出していたのだ。たしかに子どものころ食べた千歳飴には妙な美味しさがあった。

「また食べたいもんだね」

そう言いながら、31歳は私の買い物カゴにさりげなくワッフルをいれた。それは千歳飴じゃないだろと言うと、「ワッフルはワッフルでおいしいからね」という返答がかえってきた。結局「そっちばかりズルい」ということで私もワッフルを買った。

帰り道は千歳飴の話題でもちきりだった。31歳はとにかく千歳飴をもういちど食べたいと言った。私もそれには同意した。

「千歳飴ってどこで買えるんだろ。スーパーでも買えるのかな。さっき見ればよかったね、ワッフルは千歳飴じゃないもんね。でもワッフルもおいしいよね、でも千歳飴はもっとおいしかったかなあ。千歳飴とワッフルってどっちがおいしいんだろうね?」

あまりに無意味な二択を提出されたが、私の解答も待たず31歳は続ける。

「どっかで千歳飴見かけたら買おうね。ひさしぶりに食べようね。千歳飴って長いんだよね、それが嬉しいんだよ。ふつうはアメって丸いのに、千歳飴は棒だからね。すごくない? アメの棒だよ? 天才の発想だよ。贅沢な食べ物なんだよね、アレは」

絶賛は続く。

「やっぱり七五三っていう特別な時にしか食べられないのもデカいよね。イベント感があるし。たいてい人生で二回か三回しか食べられないんだよね? それがすごいよ、しかもアメの棒だし、なんてったってアメの棒だしね。あたしにも七五三がこないかなー。7歳って何年前なんだろ、えーと……31ひく7でしょ、だから、24年前!」

元気にそう言い切ってから、31歳は自分で自分の発言におどろいたような顔をした。

「…………24年もたってんの? マジで……?」

うなぎのぼりだった31歳のテンションが急激に下がった。現実に引き戻されたようだった。

「年とったもんだねえ……」

口から前歯をのぞかせながら、31歳はしみじみ言った。せつないときの前歯は、上唇の下からチラリと出るのだ。

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マッチョな小学生に強烈なジェラシー

マクドナルドでムキムキの腕をした小学生を見た。

正直なところ嫉妬した。小学六年生くらいだろうか。まだ顔はあどけない。童貞丸出しのあどけない顔立ちをしておる。しかしなぜか腕だけが、ノースリーブからのぞく二本の剛腕だけが、大人も顔負けの圧倒的な存在感をはなっていた。

腕相撲したら負ける。即座にそう思った。

巨大なバッグを肩からかけていた。クラブ活動の帰りだろうか。サッカー部、あるいは野球部? 練習を終えて、帰りにマクドナルドで食事をしていくということか。小学生のくせに、ちょっと筋肉があるからって、ひとりでマクドナルドでハンバーガーを食べていいものだろうか? 大人びた態度をとりやがって。

小学生はレジで注文をすませて、トレイの前でバーガーの到着を待っていた。私はずっと小学生をにらんでいた。野生動物が天敵に出会ったときのように、ギリギリと歯ぎしりしながら、眉間にしわをよせて凝視していた。小学生の腕はたくましく、二頭筋と三頭筋という二匹のドラゴンが、いまにも飛びかかってきそうだった。

最近の私はどうかしている。

とうとう小学生にまでライバル心を感じるようになってきたのだ。なんなんだ、筋肉ならばなんでもありか。見境なしに筋肉をみて、嫉妬して、歯ぎしりして、地団駄をふんで、心のなかで「俺だって……!」とつぶやいている。筋トレをはじめて以来、自分の未熟さばかり目について、あらゆる男たちが筋肉を見せつけてくるように感じる。

店員が小学生のトレイにバーガー等をのせた。小学生はそのたくましい二本の腕で、トレイをしっかりと持ち、こちらのほうへ歩いてきた。トレイくらい俺だって持てる。ついさっき、俺はトレイにビックマックとポテトとドリンクをのせて、堂々とここまで歩いてきた。俺の腕も負けていない。トレイを持ったくらいで得意になるのは大間違いだからな!

小学生がとなりの席に座った。

私はずっと緊張していた。見ないふりをした。目があったらやられると思った。すこし右腕に力をいれてみた。俺の上腕二頭筋を見ろ、なかなかのもんだろう? そんなテレパシーを送ったが、小学生には届いていないようだった。

私はふたたび右腕に力をいれて、服の下で力こぶを何度もピクピクさせた。筋肉を激しく動かして、右に座る幼い獣に、大人のたくましさを誇示してやった。それは筋肉の躍動によるモールス信号であった。

ピク、ピク、ピク、ピク、ピク、ピク、ピク…

オ、レ、ノ、ホ、ウ、ガ、ツ、ヨ、イ。

小学生に伝わったか分からないが、それだけやると私は満足して席を立ち、帰宅した。小学生のほうは振り返らなかった。

最近の私はどうかしている。

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普通に祝日を満喫した女

さて、本日は祝日だったわけですが。

31歳女性があたりまえのように休みを満喫してたので衝撃をうけました。つい二日前、「木曜が休みになっても意味ないよ!」と断言していたはずなのに、「木曜の休みなんて法律で禁止するべきだよ!」とまで言っていたのに(参考)、ものすごく幸せそうに今日という一日をすごしていました。

おとといの熱弁は何だったのだ。

みなさん、そんな疑問もわいていることでしょうが、とりあえず、31歳の満喫ぶりを紹介させてください。

まず、昼すぎまで余裕の熟睡です。口をあけて、前歯をのぞかせながら、幸福の絶頂って感じの熟睡。それはもう、観音様の夢でも見ているのかというほどの安らかな眠りで、31歳のうしろに桃源郷がみえました。

一時ごろに目覚めると、パジャマ姿のままコーヒーを淹れます。そしてパソコンをひらき、すぐさまネコのサイトへアクセス。慣れた手つきでアクセスです。コーヒーを飲みながら、むさぼるようにネコの画像を見始めました。

ブックマークに入っているネコ関連ブログを次々と見ていって、初孫を抱いたおばあちゃんのような顔になりながら、小一時間ほど。この時点ですでに「木曜の休みなんて意味ないよ!」と言ったときの面影はありません。

存分にネコ欲を満たしたあとは、スッピンにメガネのまま、帽子を深めにかぶって寝グセをかくし、近所のコンビニへ。

帰宅すると、買ってきた甘いパンに舌鼓をうち、食後にはイチゴ味のトッポも食べる。「前歯をつかってトッポをすこしずつ削る」という芸を私に見せつけて、キャッキャキャッキャと盛り上がります。

そしてトッポを食べ終えると、「なんか眠くなってきた」と言い出して昼寝。昼すぎに起きたのに昼寝です。

夜はハヤシライスに豚カツを特別トッピングして、本日何度目かもわからない笑顔。

夕食後はネット。「キモい生き物の画像を貼ろう」みたいな記事を見て悲鳴をあげつつ、合間にネコのブログを見て「やっぱりネコはかわいい」と再確認、もちろん満面の笑みでした。

その圧倒的な満喫ぶりに、私も空いた口がふさがらなかったのですが、いちおう、二日前はあんなに木曜の休みを否定していたわけですから、それについてどう思っているのかコメントがほしい。忘れたとは言わせない。そう問いただすと、31歳はタバコを吸いながら遠い目をして、「まあ、あれだね」と切り出しました。

「休日は何曜だろうとうれしいよ」

だそうです、みなさん。

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