真顔日記

上田啓太のブログ

ヘラクレスオオカブトはずるい

小学生のころは虫とりに夢中だった。虫とりあみと虫かごを持って近所を探険する。すると自然と虫にランクが生じはじめる。珍しい虫ほど価値は高い。そこらへんにゴロゴロ転がっている虫は捕まえても嬉しくない。

たとえばアブラゼミはランクの低い虫の筆頭だった。とにかく夏になりゃミンミン言っているし、一本の樹に十匹以上しがみついている。二週間もすれば全員死んで地面に転がっている。こんな虫は捕まえるまでもない。

しかし稀少なセミもいた。たとえばクマゼミである。これは非常にレアだった。一夏をとおして数匹見れればいいところ。だからクマゼミを見つけた日はテンションは上がる。絶対に捕まえたいと思っていた。ある時、夏の終わり、うちの郵便ポストでクマゼミが死んでいたことがあった。私は神さまの贈り物だと思っていた。

しかし京都で暮らしていると、クマゼミをけっこう見かける。生息分布の違いなのか、そのへんの地面でゴロゴロ死んでいる。長い月日を経て、クマゼミの価値は暴落した。貨幣のだぶつきに似た状態。クマゼミの流通量過剰。

トンボも捕まえていた。これはオニヤンマが王様だった。ちなみに最低ランクはシオカラトンボで、これは腐るほど飛んでいた。腐りながら飛んでいたんじゃないかと思えるほどだ。イトトンボというのもいて、これはその名のとおり、糸のように細い身体を持っていた。レア度が高いから好きだった。

しかし子供は昆虫にたくましさを求める。よって、イトトンボにはいまいち乗れない。となれば、オニヤンマである。レア&たくましい。オニヤンマは休日に父親の車で連れていってもらえる遠くの公園でしか見ることができず、まれに近所を飛んでいるのを見た時など、うちの近所で芸能人を見かけたような興奮を感じていた。

オニヤンマよりもレアな存在として、ギンヤンマというものもいた。これは数年に一度しか見ることができない。オニヤンマの銀色バージョンで、あの頃の私はすぐにファミコンの知識を応用しようとするから、「2Pカラー」という発想をしていた。オニヤンマの2Pカラーがギンヤンマなのである。

カナブンもよく捕まえていたが、これはエメラルドグリーンのカナブンが最上級だろう。茶色のカナブンなんかは雑魚である。似た形では、カミキリムシというのもいた。ゴマダラカミキリという種類で、これはアパート前の地面に落ちていたが、ボトボト落ちているわけではないから、それなりに評価の高い虫だった。

アゲハチョウの幼虫も見た。色使いは美しかったが、こいつは頭のあたりから黄色の触手を出すという非常にきもちのわるい動きをする。しかもその触手が臭い。これが外見のあざやかさをだいなしにしていた。

そしてカブトムシ、これはもちろんキングである。そのなかでも最強はヘラクレスオオカブトだった。昆虫図鑑の存在感が大きかった。図鑑を見ながら妄想をふくらませる。とくに海外の昆虫は凄い。私は幼少期からヘラクレスオオカブトに強い執着があるんだが、これは完全に図鑑のせいだった。日本の日常生活には一切登場しない。だから知らない人はまったく知らないのかもしれん。南米に生息する世界最大のカブトムシである。

むしや本舗 ヘラクレスオオカブト成虫 オス(ヘラクレスヘラクレス) 140~143mm [生体]

カブトムシなのに、身体にイエローが入っている。この色づかいは革命だった。ほとんど禁じ手と言ってよい。カブトムシなのに黄色を使う。でしゃばりだと批判されても仕方ない。しかし最強なのだ。最強だからこそ許される。スタンドプレーにならない。

かぶき者であり、同時に最強である。いくらなんでもあんまりだろう。こういうやつはふつう、二番手じゃないのか。主人公の茶色いカブトムシがいて、ピンチのときにだけ、謎の昆虫としてヘラクレスオオカブトが助けに来る。それならば分かる。しかし主人公がヘラクレスオオカブトなのだ。

とにかく子供の頃から、私のヘラクレスオオカブトに対する感想は「ずるいよ……」の一言に尽きる。ヘラクレスオオカブトはずるい。