真顔日記

上田啓太のブログ

レンタルCD屋でビーフジャーキーをすすめられた

Morning Phase

近所のレンタルCD屋に行った。最近の自分は時代の流れに逆行してCDを借りているからである。今日はインディー系の洋楽を借りると決めていた。気になっていたアルバムを三枚借りた。ベックとウィルコとアヴァランチーズ。

ウィルコというのはアメリカのバンドである。アヴァランチーズはよく知らないがバンドである。そしてベックは有名なアメリカ人である。まともに説明する気がなくてすまない。インターネットにたくさん情報があるので調べてください。

店内をうろつきながら思ったんだが、このご時世、レンタル業は厳しいようだ。店内で菓子やオモチャを売っている。数年前はこんなものはなかった。徐々にレンタル部分の面積が減り、オモチャと菓子のコーナーが増えている。今日はとくにひどかった。CDを持ってレジに行くと、店員にビーフジャーキーをすすめられた。

「これ、いかがですか? アメリカで人気ナンバーワンのビーフジャーキーなんですよ!」

元気よく言われて、反射的に吹き出した。いくらなんでも唐突すぎる。そしたら店員も吹き出した。店長の命令で仕方なくすすめていたんだろう。そりゃそうだ。何故レンタル屋でビーフジャーキーなのか。

二人とも吹き出したことで、店員の接客からマニュアル感が消えた。不条理を共有すると結束は強まる。

「いらないですか、ビーフジャーキー」
「ビーフジャーキーはいらないです」
「アメリカで人気ナンバーワンなんですけど」
「いらないっすね」
「ナンバーワンなのに?」
「ナンバーワンでも」

二人ともヘラヘラしていた。店員とヘラヘラ感を共有すると、少し楽しい。

 *

CDを受け取って店を出た。帰り道で考えたんだが、ナンバーワンうんぬん以前に、私はビーフジャーキーと言われると「犬?」と思ってしまう。アメリカで人気ナンバーワンだろうが、私の中じゃアレは犬が食ってるもんだ。CDを借りるはずが犬の食ってるもんをすすめられる。犬のように扱われている。その面白さもあったかもしれん。

しかもそんな時にかぎって、私が借りたのはベックとウィルコとアヴァランチーズだ。ベックとウィルコとアヴァランチーズを聴く犬だ。めちゃくちゃ渋い。非常にシックな趣味の犬である。ベックとウィルコとアヴァランチーズを聴いている犬がいたら好きになってしまいそうだ。ネコ派の自分もさすがにくつがえる。

ベックとウィルコとアヴァランチーズを聴く犬には色々と質問してみたい。犬は人間よりもずっと耳がいいから、細かい音まで聞き込むことができるだろう。このあいだ出たレディオヘッドの新譜あたりを絶賛してくるだろうか。

「トム・ヨークの音楽は、いつも俺の鼻をビショビショに濡らしてくれる」

尻尾をブンブン振りながら言われるんだろう。

ベックとウィルコとアヴァランチーズを聴く犬はライブにも行くだろう。しかし迷い犬扱いされる。どの人間よりも真剣に聴いているのに単なる迷い犬扱い。これはかわいそうだ。フジロックに行っても現地の野犬だと思われる。棒でシッシッと追い払われてしまう。ベックとウィルコとアヴァランチーズを聴くほどの犬なのに。

そろそろ、ベックとウィルコとアヴァランチーズと言いたいだけの自分になってきた。語感の気持ちよさに負けてしまった。悪い癖だ。ひとつ気に入ると、なしくずし的に語感以外のことがどうでもよくなってしまう。語感に負けて舌の奴隷になる。犬以下である。ビーフジャーキーを食べよう。