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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

「女と寝る」という島耕作の一発芸

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マンガを読んでいると、作者の意図しないところで笑ってしまうことがある。たとえば『課長島耕作』のシーンの飛びかた。これが私はツボである。

むかし定食屋で読んだだけだから細部は曖昧なんだが、島耕作が綺麗な女と知り合う。二人でバーに行き、しばらく話し込む。すると女がグラスを持ち上げて言う。

「残りのジャック・ダニエルは、もっと静かなところで飲みたくない?」

そして次のページではベッドに入っている。あの感じ。あれが笑ってしまう。完全にネタ振りとオチとして認識している。私はあのマンガをセックスというオチを楽しみに読んでいた。「そろそろ女と寝るぞ、女と寝るぞ、ホラ寝た!」という感じ。感覚としては吉本新喜劇。定番ギャグとしてのセックス。女と寝るというのは島耕作の一発芸なのだ。

コマとコマのすきまで女を口説く、それが島耕作という男である。世界には数多のプレイボーイがいるが、こんな妙な場所で口説くのはこいつくらいだろう。顕微鏡でコマとコマのすきまを観察すれば、島耕作が女を口説く姿が発見されるのだ。ミジンコみたいな島耕作をプレパラートにのせよう。ついでにミジンコみたいな女と、さらに小さなジャック・ダニエルも。

書いているうちに面白くなってきた。本当にこんなマンガだったか。記憶を捏造している気もする。しかし冒頭で挙げたジャック・ダニエルのくだりは確かにあったはずである。あれからしばらくジャック・ダニエルという単語だけで笑っていたから。

意図と関係なく笑ってしまった作品は他にもある。『ベロニカは死ぬことにした』という真木よう子主演の映画があって、これも笑う映画ではないのに、私は笑っていた。

物語の終盤、真木よう子が愛する男に自慰を見せるシーンがある。たぶん作中では「性の解放」か何かを表現しているようなんだが、真木よう子が絶頂を迎えたあと、蛇口から水がバシャーッと出るカットが唐突に挟まるのである。

その後、シャワーの水がバーッと出るカットも挟まり、おだやかな湖のカットまで挟まる。真木よう子の自慰からの、蛇口で水ブワーッの、シャワーで水パシャーッの、湖で水面ユラァ……である。たぶん大真面目にやっているんだが私は爆笑していた。

これについては、『裸の銃を持つ男』というコメディ映画に似たものがあった。主人公が女と出会ってセックスするんだが、その絶頂においてスペースシャトルが発射されるカットが挟まる。こっちは完全にギャグでやっている。それを思い出した。

やはり、メタファーなんてのはよほど繊細にしないとギャグになるもので、私は『バガボンド』という漫画自体は好きだが、あれもたまに演出をやりすぎてギャグすれすれになっていることがある。たとえば武蔵が柳生石舟斎に出会い、その器の大きさを実感して、「ああ、この人は山だ……」と言った瞬間、ほんとうに身もふたもなく山のコマが入ってきたりする。あれは笑ってしまう。「※イメージ映像です」と言いたくなる感じ。

しかしまあ、やはり島耕作である。「残りのジャック・ダニエルはもっと静かなところで飲みたくない?」である。そのうち読み返したい。ジャック・ダニエル片手に。