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真顔日記

上田啓太のブログ

私は人の家の物置に住んでいる

小部屋じゃなくて物置だった。このあいだ気づいた。私がいま住みついている二畳の空間、これを六年にわたって私は小部屋と呼んでいたが、ちがう。物置である。同居人に指摘されて気がついた。昨冬、「俺の小部屋は寒い」といった時、「まあ、物置だもんね」とサラリと言われたのだ。

「ていうか、大家さんも驚いてたしね」

畳み掛けるように同居人は言った。大家さんというのは近所に住む老夫婦である。私は会ったことがないが、同居人は月末になるたび手渡しで家賃を払っている。ちなみに男を住まわせていることは知られている。ネコがどんどん増えていることも知られている。増えるたびに笑われているらしい。

そのときの雑談で、「男のほうは二畳の小部屋に住んでいる」と言ったとき、大家さんはしばし絶句したという。

「でもあれ……物置でしょう?」

家の所有者に言われてしまったわけである。言い逃れできない。完全に物置である。たしかに、私が転がりこむ前は普段は使わない大型のいろいろが放り込まれていた。六年前、掃除機をどかして自分の荷物を運びこんだ。前の住人が掃除機だった人いますか!

そもそも、「小部屋」という言葉は日本においてあまり使われない。私だって生まれてから二十五歳までは小部屋という単語を口にしなかった。それがこの場所に住みはじめてから何度も「俺の小部屋」と言っている。日常で使用する言葉ベスト10に入っている。完全な言葉のすりかえだ。私は人の家の物置に住みついているのだ。

それにしても、「人の家の物置に住みついている」というのは妖怪のたぐいではないのか。こんなものは妖怪図鑑に書かれるべき文言であり、自分について語るときに出てくる言葉ではないだろう。

会社の面接で空白期間を聞かれて、「人の家の物置に住んでました」と言うのはどうなのか。「ずっと無職です」とか「いわゆるニートというやつでして」という返答のまずさと比べても、「人の家の物置に住んでました」はまずいんじゃないか。採用される気配がまったくない。面接官は疑わしそうな目で言うことだろう。

「つまり君は……妖怪だったということかね?」

いや、そんなことを言う面接官はいないか。いるならむしろ入社したい。入社したくなってきた。大真面目に言われたい。ハゲでメガネで背広の管理職に「君は……物置に住む妖怪だったのかね?」。これは最高である。

以下、想定される質問と私の回答。

なぜ物置に住む妖怪をやめたんだね?

はい、もっと広い世界、ワクワクする世界を見てみたいと思ったからです。

物置に住む妖怪の経験は、我が社に生かせそうかね?

妖怪とのコネクションのある社員は少ないと思いますので、私の経験は生かせると思います。

屋根裏や風呂場ではなく、物置だった理由を説明できるかね?

小さな頃から物置が好きだったのが大きな理由ですが、同時に、風呂場にはすでに垢なめがおり、屋根裏には蜘蛛男がいたことも大きな要因でした。私は彼らと張り合うよりも、物置を自分の居場所に定め、そこにしっかりと根を張り、自分の「好き」を追求したいと思ったのです。

物置時代の一番の思い出は何かね?

日本以外の世界を知りたいと思い、アメリカのガレージに留学して、一年間、ガレージのすみでジッとしていたことです。ゴーストやゾンビやフランケンシュタインと交流を深め、異文化を知ることの大切さを学びました。ゾンビとはいまでも連絡をとりあう仲です。

完璧である。無事に採用されるだろう。

そして会社の物置でジッとする。妖怪なので。