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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

「おまえは俺が守る」がギャグになる家

居候生活

男という生き物には「愛する女を守りたい」という欲望がある。

そんな話を聞くが、私にはいまいち理解できない。別に女を守りたいとは思わない。しかし他の男を見ていると、そういう欲望で動いているように見える。騎士願望とでも言えばいいのか。「おまえは俺が守る」というやつである。古くは中世の騎士物語から現代の漫画に至るまで、男は女を守るために戦っているのだ。

やはり、愛する女のために戦いたい男は、女性宅に居候したまま六年もすごさないということか。騎士であることを良しとする男は、六年の居候生活を絶対に許さないだろう。三年でも許さないか。そもそも年数の問題ではないのか。

私が同居人女性に「おまえは俺が守る」と言ったら、それは完全にギャグになる。鉄板ギャグになりそうな予感さえある。代表作になりそうだ。

「俺……、おまえのこと守るから」

「じゃあまず光熱費を払え」

こうくるだろう。絶対にこうくる。断言できる。即座に切り返される。ありありと浮かぶ。前歯の飛び出し具合まで想像できるほどだ。

「俺……、おまえのためなら死ねるから」

「じゃあ早急に光熱費を払え」

「おまえを守ること、それが俺の使命」

「わかったから光熱費を払え」

「おまえの涙、ぜんぶ俺が蒸発させてやるよ」

「ハイハイまずは光熱費を払え」

とにかく光熱費だろう。あとはネット料金。この二点で、ありとあらゆる「おまえは俺が守る」系の呪文が跳ね返されるかんじ。光熱費を払っていないくせに、この家のヒーターを無料で利用することで今年も冬を越したくせに、何を観念的なことばかり言っているのか。観念で冬が越せると思っているのか。

「俺、おまえを守るために生まれてきた!」

「いや、光熱費を払うために生まれてきた」

これは確実に言われる。したり顔で前歯を出される。ウィットに富んだときに出るタイプの前歯だ。前歯にウィットと書いてあるのだ。左の歯に「ウィ」、右の歯に「ット」。

要するに、居候にいちばん似合わないのが「おまえは俺が守る」という言葉なのである。今の私の状況じゃ、こういうセリフは全部ギャグになってしまう。

「おまえは俺が守る!」

これは成立しない。しかし、

「おまえが俺を守る!」

元気よく、これを言えばいいのかもしれない。

さりげなく助詞を変えているんだが、堂々としていれば気づかれないかもしれない。釣銭をごまかす小ずるいバイトのように、ささっと助詞をごまかすのだ。どしゃぶりの雨の中、傘をほうりだして大真面目に言っていたら、向こうもなんとなく騙されるかもしれない。

「おまえが俺を守るんだ! 俺を守るんだよ! おまえがッ! 守る、絶対に守る! 絶対におまえが俺を守る! たとえ何があっても、世界中を敵にまわしても、何度生まれ変わっても、おまえが俺を守るから! 約束だッ! おまえが……俺を守るッ!」

絶叫してればいいのかもしれない。

こんなことを書いているうちに当の本人である女性が帰ってきたので、今日の日記はこれで終わり。助詞をごまかしている場合ではない。「またしょうもないこと書いてるんでしょ」と言われてしまう。これは確実に言われる。前歯に「しょうもない」と書いてある。左の歯に「しょう」、右の歯に「もない」。そもそもこの発想が「しょう」「もない」。

そういえば、昔、「好きだけじゃ、ダメですか?」と言ってみたら、「ダメに决まってるでしょ」と返されたのを思い出した。ぜんぜん成長していない。