真顔日記

上田啓太のブログ

今の仕事を小学生の自分に説明できるか?

週刊アスキーに『WEB0.2』という大喜利コーナーがあり、私は回答者として参加していた。数年前の話だ。編集部から毎週お題が送られてくるので、回答を考えて提出する。私以外にも十人ほどが参加しており、採用数に応じて原稿料を受け取っていた。

連載があった頃は、よくスタバで回答を考えていた。短時間でガッと集中するのに、スタバはちょうどよかった。大喜利の仕事だから、もちろん面白い回答を考えるわけだが、一人で黙々とやることなので、別に笑ったりもしない。ほとんど数学の問題でも解いているかのような冷静さで淡々とやっていた。

ある時、店員に「お仕事中すみません」と声をかけられた。スタバでは、たまに店員が新商品のサンプルを配る。そのために話しかけてきたらしい。私がパソコンを開いていたから、「お仕事中」と言われたのだろう。

だが、そんなときにかぎって、私の取り組んでいた大喜利のお題は「鼻くそをほじっているのを見られた時のカッコイイ一言」だった。

・これが鼻くそのクオリアか

・この鼻くそを場に伏せてターンエンドだ!

そんな回答を書いていた。

一人で考えている時は真面目な態度でやっているが、店員に話しかけられて、「お仕事中」とまで言われてしまうと、自分のやっていることを俯瞰してしまい、「これが仕事なのか……」と思ってしまった。

いや、原稿料をもらっているわけだから、仕事という言葉は間違っていない。しかし、やはり、鼻くそをほじっているのを見られた時のカッコイイ切り返しを考えることで金銭が発生するという事態に、いまいち自分でも馴染めない。そんな行為に金銭が発生するわけないだろう。

二十年前、まだ小学生だった自分にこの仕組みを説明できるか、ということである。サラリーマンや八百屋さんが仕事だと思っている相手に、「これが鼻くそのクオリアか」という言葉を考えてお金をもらう仕事もあるんだと説明できるか? そして二十年後の自分が従事しているのはまさにそういう仕事なのだと、納得させられるか?

さらに言えば、女性宅に転がりこんで何年も暮らしているのはどうなのか? そしてたまに鼻をほじっているときのカッコイイ切り返しを考えたりして日銭を稼ぎ、無理やり生計を立てていることを納得させられるか? 「なんで? なんで? なんで?」と連発されそうだが、その疑問にひとつひとつ答えてやれるのか?

小学生の自分はこちらを見上げながら、つぶらな瞳で問いかけてくることだろう。

「じゃあ、二十年後の僕は女の人の家に住みながら、鼻くそをほじってる時のかっこいい言葉を考えてるの? それじゃあ僕がいま算数とか国語とか社会とか勉強してるのは何なの? 進路で迷ったりしてるのは何なの? 親や教師の言ってることは何なの? 勉強とかしなくてよくない?」

「いや、世界はそれだけ多様なんだよ。みんながみんな勤め人になる世界なんてつまんないだろ? 人それぞれ、自分にとって適切な場所を探していく。それが人生ってもんさ。会社勤めに向いてる人もいる。個人で仕事することに向いてる人もいる。それだけのことさ」

模範解答はこんな感じなのかもしれんが、しかし、

「じゃあ僕は、『この鼻くそを場に伏せてターンエンドだ!』という言葉を考えることに向いてたわけ? そこが僕の適切な場所なの? 『この鼻くそを場に伏せてターンエンド』というのが? それってあんまりじゃない? 本当に胸を張ってそこが自分の居場所だと言えるの? 大体、なんで鼻くそを場に伏せるの? 鼻くそを場に伏せるって何? 鼻くそって場に伏せるものじゃなくない? ほんと人生って何?」

このへんで殴ってしまうかもしれない。「これが痛みのクオリアだ」と言いながら。