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真顔日記

上田啓太のブログ

チコマートを探す謎の少年

散歩中、一人の少年に道を聞かれた。小学校低学年くらいだろうか。半ズボン姿で、みごとな丸刈りである。平べったい顔をしていて、ほとんど表情がない。

「チコマート」と少年は言った。聞いたことのない名称だった。スーパーか何かだろうが、このあたりは私の生活圏とずれていて、詳しいところは分からない。

少年は私の目を見つめ、ふたたび「チコマート」と言った。最低限しか単語を発さないように教育されてるんだろうか。「に行きたい」と頭のなかで補う。しかし私も場所を知らんのだから、補ったところでどうしようもない。

「聞いたことないなあ」と私は言った。

「王将の向かい」と少年は言った。それでピンときた。チコマートは知らんが、餃子の王将ならこのへんにあるし、場所も分かる。歩いてすぐのところだ。しかし細い道にあるから少々分かりにくい。それで見つけられなかったんだろう。王将まで案内してやることにした。少年は無言でついてきた。

道中、沈黙もなんなので話を振った。

「なんの用事で行くの?」

この質問は完全に無視された。

「チコマートあるといいねえ」

この希望的観測も完全に無視された。

「あるといいなあ」

自分で自分に答えてしまい、当然無視された。

「むん……」

このうめき声も無視された。そして私は、何かを言うことをやめた。少年をチコマートに連れていくだけの冷徹な機械になろうと決めた。道案内するだけのアンドロイドになろうと思った。こんなに切ない思いをさせられるくらいなら。

しばらく歩いた。少年は何も言わなかった。きっと内気な子なんだろう。勇気をふりしぼって知らない人に声をかけたんだろう。そう思うことにした。別にいい。子供はそんなもんだろう。やがて王将のある小道が見えてきた。あの道を入ったところだよ、と言おうとした瞬間、少年がピョンピョン飛び跳ねはじめた。

「ウォッシャアーッッッ!」と少年は叫んだ。

「うおっしゃ!おっしゃ!ウオッシャ!わかった!わかった!わかったあああ!」

絶叫しながら猛ダッシュし、小道に入って見えなくなった。「ウォッシャアーッ!」という声だけが、その後もしばらく聞こえていた。

礼を言うこともなく、こちらを振り返ることすらなく少年は私の元を去り、最後の豹変ぶりからすれば内気な性格ですらなく、あまりにも意味がわからず、怒りすら湧いてこず、ただただ呆然とし、この感情を誰かと共有したかったが、誰もいなかった。

「何なの……?」

私の頭に浮かんだのは本当にそれだけで、わけの分からないものに巻き込まれて無茶苦茶にされた気分のまま来た道を戻ったが少年のことが頭から離れず、しばらくして思いついたのが、「あの少年がチコマートだったのでは……?」という仮説で、つまり私はチコマートの精にでも会ったんじゃないかと考えたんだが、そんなわけあるか。