真顔日記

上田啓太のブログ

惣菜コーナーの棒ヒレカツ

同居女性とスーパーに行った。

惣菜コーナーに「棒ヒレカツ」という馴染みのない商品があった。その名のとおり、棒のように長いヒレカツだった。説明するのが恥ずかしくなるほど、そのまんまの形状だった。

棒ヒレカツはあまり売れていなかった。他の惣菜と比べると数が残っている。あまり人々の中に、ヒレカツを棒にしてほしいという欲望はないのかもしれん。私も人生で一度もヒレカツを棒にしてほしいと思ったことがない。それは同居女性も同じようで、「なんで棒にしちゃったかね?」と露骨に批判的だった。

さらに値札を見ると、棒ヒレカツはそこそこの値段がする。冒険してみるにはハードルが高い。プラスチック容器に一本だけ無造作に放り込まれていて、妙にスカスカの印象を与えるのもよくない。

我々は惣菜コーナーを離れ、店内を歩きまわった。菓子のコーナーでいくつかカゴに入れた。パンのコーナーでパンを選んだ。ふたたび惣菜コーナーの近くを通りかかった。

夜の八時前、値引シールが貼られはじめる時刻だった。小型の機械を持った店員が作業を始めていた。売れのこった大量の棒ヒレカツに、半額シールがぺたぺた貼られはじめた。店員のまわりに、すこしずつ人々が集まりはじめた。

まあ、我々もそのうちの一組だったんだが、誰もが「半額なら……」と思っていたんだろう。「ヒレカツを棒にしてほしいと思ったことはないけど、半額なら……」と。私もそう思っていたし、同居人など小さく口に出して「半額なら……」と言ってしまっていた。

店員が去って、棒ヒレカツを取ることが可能になった瞬間、人々は次々と手を伸ばし、カゴに入れはじめた。我々も必死でひとつ取った。さきほどまでの余りぶりが嘘のように、棒ヒレカツは一瞬でなくなった。

「棒のヒレカツ買っちゃったね」
「棒なのにな」
「でも半額だしね」
「棒は棒でもヒレカツだしな」

そんな話をしながら帰路についた。

棒ヒレカツをメインにした夕食を食べた。説明するのもアホらしいが、ヒレカツの味がした。ちなみに、同居人が食べやすい大きさに包丁を入れたので、棒としてのアイデンティティは即座に崩壊、食卓に並ぶ頃には、ただのヒレカツとなっていた。味はよかったが、やはり、ヒレカツは棒にしなくていいと思った。我々のなかに、ヒレカツを棒にしてほしいという欲望はない。