真顔日記

上田啓太のブログ

コクリコ坂と路上の暴力

数年前、同居人と『コクリコ坂から』を見に行った。

二条シネマのレイトショーだった。コクリコ坂は、とんでもない傑作という感じではなかったが、よい映画だった。ほんのりと花の匂いのするような映画だ。だから我々は市バスに乗るのをやめ、夜道を歩いて家に帰ることにした。ほほにあたる夜風が心地よかった。

しかし、帰り道で事件が起きた。

千本丸太町と千本今出川の中間あたり、居酒屋の前で二人の男が揉めていた。周囲には人だかりができていた。我々は興味をひかれて野次馬に加わった。揉めているのは中年の男二人で、スーツを着ていたからサラリーマンなんだろう。飲み屋で知り合って喧嘩になったようだった。二人ともべろんべろんに酔っているから、何を言っているか判然としない。

そのうち、片方の男が捨てぜりふを吐いて、その場を後にした。野次馬はさっと道をあけた。これで終わったかと思った。しかし、もう一人は後ろを追いかけて、振り向いた男の顔面に、おもいきりパンチを食らわした。男はその場に倒れた。人々がざわつきはじめた。殴ったほうは満足そうに歩いていった。しばらくして警察が来た。誰かが呼んだんだろう。

我々は現場を後にした。翌日のニュースにはなかったから、殴られたほうも死にはしなかったんだろうが、人間が人間を本気でブン殴る場面など日常で見ることがないから、我々はとてつもない衝撃を受けた。コクリコ坂の余韻は吹っ飛んだ。そのあとの帰り道は喧嘩の話題で持ち切りだった。

そして数年がすぎた。同居人とジブリの話題になって気づいた。我々のあいだで、コクリコ坂の記憶はあの暴力事件と結びついてしまっている。コクリコ坂のあらすじを思い出すと、こんなことになってしまう。

「カルチェラタンが舞台になっててさ」
「主人公は高校生の男の子で」
「時代は昭和だったよね、学生運動のころ?」
「岡田くんと長澤まさみが声をやってて」
「そうだそうだ」
「淡い恋なんかも描かれてて」
「そうそう」
「取り壊しを阻止するために色々やる」
「たしかね」
「で、最後は千本通りで男が別の男をブン殴って」
「はいはい」
「警察が来て終わったんだよね」
「だね」

あのラスト、北野映画ばりのソリッドな暴力描写だったよね、みたいな話になってしまう。吾朗って意外とやるよね、みたいに。

なので、数年前に千本通りで揉めていた二人は、手をつないで和解したことを示しながら、我々のコクリコ坂を奪ったことを謝罪してほしい。こんなところに書いても仕方ないんだが。