真顔日記

上田啓太のブログ

天才ネコにうかれる女

セツシというネコは妙に鳴く。人間からすれば何の意味があるか分からないタイミングで、唐突にニャアニャア言いはじめる。

たとえば初音なら、意味のある鳴き方しかしない。「わたしは腹がへった」「わたしと遊べ」「わたしをかわいがれ」など、明確な訴えを持っている。ある意味、会話が成立する。「わかりました」と人間も言える。

しかしセツシは、なぜ鳴いているのかさっぱり分からない。何の文脈もないところで鳴きわめく。まだ子供だから喉を使うのが楽しくてしょうがないのかもしれん。「喉が面白い」という感覚だ。「発声ってマジ面白い」という感覚。

散弾銃のように鳴きまくるせいで、妙なことも起こる。同居人が「せっちゃん!」と呼んだ瞬間、「ニャー!」と言うのである。これに同居人は感激してしまう。

「返事したよ! 聞いてた? 完全に返事したよね? すごいよ! 天才なんじゃない? ことば分かってるよね、これ!」

興奮ぎみに言われる。

しかし、どう考えても偶然である。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるで、見境なくニャーニャー鳴いているから、たまに人間の呼びかけと噛み合ってしまうのだ。

「そんなことないよ! たまに人間の言葉がわかるネコいるらしいからね。それがせっちゃんなんだよ! まだ一才にもなってないのに! 天才なのかな!」

唾が飛び、元気いっぱいに前歯が飛びだす。だが、検証するべくあらためて「せっちゃん!」と言わせてみると、何の返事もしない。女性は何度も「せっちゃん!」と言うんだが、セツシは退屈そうに耳の裏を掻いている。そして無関係なところで、唐突に「ニャー!」と言う。

「だ、だまされた……」と女性は言う。

このあいだは、偶然、音楽のちょうどいいところで鳴いていた。ロック系の楽曲のクライマックス、ドラムが激しく叩かれた直後である。

 ダダダダン!
 ダダダダン!
 ダダダダダダン!(ニャー!)

結果、イギリスのバンドが新作で大胆にネコを取り入れた形となり、同居人は爆笑しながら大興奮、またしても「天才、天才の登場!」とさわぎはじめるんだが、当のセツシはニャーと鳴いたことなど忘れ、自分のきんたまを舐めている。どう考えても偶然だ。天才ネコがきんたまなど舐めるわけがない。

「わかんないじゃん! 舐めるかもしんないじゃん!」

「ぜったい舐めないよ、天才はきんたまとか」

「天才は変人が多いんだよ! 才能ゆえに舐めちゃうんだよ!」

そんなふうに言われるが、油断すると自分のきんたまを舐めはじめる存在を、変人ということばで片付けていいものか。たとえば奇行で有名なモーツァルト、下ネタが好きだったとは聞くが、さすがに自分のきんたまは舐めなかったんじゃないか。まあ、よく知らんので何とも言えませんが。

舐めてたんですかね?

 アイネ!(ペロッ)
 クライネ!(ペロッ
 ナハトムジーク!(ペロペロッッ!)

みたいなリズムで。