読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

真顔日記

上田啓太のブログ

ショパンでグーグルに殺される

朝、三十一歳女性は会社に行くために化粧をし、私は居間でストレッチをし、三匹のネコは思いのままに駆け回っている時間帯。私は無線型のスピーカーを居間に持ち込み、音楽垂れ流しのインターネットラジオを再生していた。今日は気分的にクラシックだった。それを聴きながらストレッチしていた。

しばらくして聞き覚えのある曲が流れはじめた。ショパンだった。ショパンの中でも、かなり有名な曲だと思われる。

「これなんて曲」と私は言った。
「ショパンだね」と女性が言った。
「それは分かる。曲名」
「なんか、英雄がどうとか」
「英雄ボロネーズ?」
「いや、英雄ボロネーゼじゃないかな?」
「ボロネーズじゃない?」
「ボロネーゼだよ」

ネコたちは無関心で走り回っている。

「なんか、パスタの名前とごっちゃになってない?」
「ボロネーゼがパスタだろう」
「ボロネーズがパスタだって!」

意味もなくヒートアップしてきたので、我々はグーグルに委ねることにした。「ショパン 英雄」と打ち込むだけで、グーグルは瞬時に答えを示してくれた。検索時間0.31秒、と自慢げに併記されている。「どう? この速度で結果出せるやつ、グーグル以外にいる?」と言われた気がした。私のなかでグーグルと矢沢永吉は同じ声をしている。

曲名は英雄「ポ」ロネーズだった。バビブベボじゃなく、パピプペポだったのである。二人とも間違えているという展開は予想していなかったから我々は唖然とした。たった0.31秒で、二人なかよく瞬殺されたのである。怖るべきグーグルの戦闘力。

「まさかポロネーズとはね…」
「パピプペポとは…」
「パピプペポか…」

われわれはしばし沈黙した。

「ていうか、なんなの、英雄ポロネーズって。誰?」

女は息を吹きかえした。

「さあ、知らん」
「有名なの? 英雄のくせにパピプペポって!」
「まあ、英雄ぽくはないな」
「そうだよ! 英雄のくせに!」
「たしかに、英雄のくせにポロネーズとか名乗るやつが悪い!」
「英雄がパピプペポを使うな!」
「そのとおり!」

だが、ウィキペディアで調べてみると、ポロネーズは「ポーランド風」という意味のフランス語らしく、曲の形式を指す言葉であって、そもそも人名ではない。われわれはグーグルに殺され、ウィキペディアに死体を蹴られ、墓石にバカの二文字を彫られる事態となり、あとは沈黙を埋めるかのようにネコたちがドタドタ走り回り、英雄「ポ」ロネーズが流れ続けたのだった。