真顔日記

上田啓太のブログ

枕を奪うネコ、よろこんで奪われる女

ネコと三十一歳女性の間に主従関係ができている。もちろんネコが主人で、三十一歳が従者だ。

ネコというのは傍若無人なもので、常に自分のことだけを考えて生きている。譲り合いの精神はかけらも見あたらない。だから深夜の四時にとつぜん枕元に行って、熟睡す三十一歳の頭をクンクン嗅ぎはじめたりする。これはネコが三十一歳を起こしたい時にやることで、鼻を近づけてひたすらニオイを嗅ぎ続けるのだ。頭を嗅いで起きなければ顔面のニオイを嗅ぐ。鼻、ほほ、前歯を嗅ぐ。

たいてい、これで三十一歳は目覚める。

三十一歳は翌日も普通に仕事である。社会人にとって何より貴重な睡眠タイムに、ネコは土足で上がりこむのだ。さすがの私もネコの良心を疑った。それだけはやってはいけないだろうと、誰のおかげでメシが食えているんだと、この人が朝早くから会社に行っているおかげだろうと。

ネコに起こされると、三十一歳は「んんー?」と気の抜けた声を出す。枕元のメガネを取り、ボサボサの頭で上半身を起こす。「何?」と訊ねるがネコは返事をせず、三十一歳が使っていた枕にひらりと飛び乗り、身体を丸めて眠りはじめる。

そう、ネコは深夜の四時に三十一歳から枕を奪うのである。三十一歳が寝ていたことで暖まっているからだ。しかたなく三十一歳は枕なしで眠る。枕ではネコが王者の風格を漂わせて眠っている。これが毎晩のように起きている。結果的に、三十一歳はネコのために枕を暖めていたかのようになっている。豊臣秀吉が草履を暖めたように、三十一歳は枕を暖めているのだ。

ネコによって勝手に秀吉ナイズされている三十一歳であるが、数分後には枕のないまま幸せそうに寝ているから、辛いと思っていないのかもしれない。尽くす喜びに肩まで浸っているのかもしれない。もし同じ行為を上田がやれば翌日には家を追い出されることだろう。改めて、カワイイは暴力なんだと思う次第である。