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真顔日記

上田啓太のブログ

ヘアワックス追悼

ヘアワックスが死にました。

目覚めるとカチカチになっていました。かつての柔らかで伸びやかな面影はなく、開きっぱなしのフタの下でコンクリートのような固さになっていました。指でさわれど昔のように付着することはなく、強くこすると垢のようなポロポロしたものが指先に付きました。すこし前に購入したヘアワックス、二十七にして色気づいた自分の期待を一身に背負って我が家にやってきたヘアワックス、彼の死を受け入れることができません。

死因ははっきりしています。フタを開けたまま放置したことが原因なのです。空気にふれることでヘアワックスはあっさり固形化し、髪型をセットするという本来の機能を失ってしまいました。

私には余裕がありませんでした。ヘアワックスを指先につけて鏡に向かうとき、心臓の鼓動は高鳴り、これからやってくるスタイリングのために全神経を集中していました。だから、ワックスのフタを閉めるという簡単な作業さえ頭から抜け落ちていたのです。

ヘアワックスにもてあそばれ、望むような毛束感をゲットできず、田舎の中学生を十五年ほど老化させたような外見になって鏡の前に立ち尽くし、「明日こそ、明日こそは」と誓った自分、たいていの男性が思春期のころに獲得しているヘアワックスのコントロールを二十七にもなって習得していない自分は、翌日、洗面台でカチカチになったワックスを発見したのでした。

短い間でしたが、私はヘアワックスにありがとうと言いたい。たしかに私はイメージとかけ離れたヘアスタイルにしかなれなかった。それでもワックスのことを責められない。いまではカチカチになり、冬を越せなかった小動物のように洗面台の片隅でうずくまっているヘアワックス。ありがとう、さようなら。

次に生まれ変わった時は、オダギリジョーに買われるといいね。