真顔日記

上田啓太のブログ

アイス半額セールの悲劇

近所のスーパーにて、夕飯のために色々な商品を買い物カゴにいれ、レジに持っていった。レジ係の女がバーコードを読み取っているとき、近くの壁にチラシが貼ってあることに気がついた。

アイス全品半額!

簡素なチラシに大きな文字で書かれていた。三十一歳女性と私は同時にその存在に気がついた。「半額だって」と女性が小声で言った。「半額みたいだな」と私も答えた。声こそ小さかったが、二人とも心臓を掻きむしられたような気分になっていた。

「買っとけばよかったね、アイス」

「買っとけばよかったんだ。チラシに気づいてたら買ってたよ、絶対買ってた」

我々は小声で会話を続けた。レジの女は無表情でバーコードを読み取っていた。我々は自分たちの洞察力を恥じた。さすがに今からアイスコーナーに走り、大量のアイスを小脇に抱えて戻ってくるのは厳しいだろう。そろそろ会計の値段が出そうな頃合だった。

「こんなの入口に貼ってあったかな……」

「どうだろう、俺たち二人が気づかないなんてありえないよ」

店員に聞こえないようにヒソヒソ話をつづけた。頭のなかで様々なアイスが浮かんで消えた。半額で買えるはずだった魅力的なアイスクリームたち、それを完全にスルーして、我々は冷凍のカニクリームコロッケを買っていた。冷凍食品のすぐうしろにはアイスコーナーがあったというのに。

「ダッシュで何か取ってこようかな……ピノだけでも取ってこようかな……」

三十一歳女性がつぶやいた。精神的に限界をむかえているようだった。私は女をここまで追い詰めた半額チラシが憎かった。貼るならばもっと分かりやすく、全面的に、店内の壁すべてを埋め尽くすくらいに貼ってほしかった。恨めしい気持ちでチラシを見た。そして気がついた。

「これ、日付、明日だぞ」

女性もチラシを凝視した。

「ほんとだ、明日だ」

何度確認しても、日付は今日ではなく明日だった。

「明日の告知だったんだ。明日の告知だったんだ……!」

「今日じゃなかった……!」

爆発しそうな感情をヒソヒソ声に凝縮した。体内の血液が逆流するのを感じた。チャンスは失われてなどいなかった。神は我々を見放していなかった。レジ係の女は我関せずといった態度で最後のバーコードを読み取り、淡々とした声で金額を告げた。我々は空前絶後の笑顔で千円札を二枚出し、釣り銭を受け取ってレジを出た。

ビニール袋に商品を詰めながら明日の来店を誓いあっていたとき、レジのほうから老人の野太い声がきこえた。

「これ明日かぇ!?」

Tシャツに半パン姿の老人が呆然とした表情で立ち尽くしていた。

カゴの中には大量のアイスが入っていた。