真顔日記

上田啓太のブログ

前髪を切りすぎた男

前髪切りすぎちゃった。

どうしよう。

まさか、こんな女子高生の日記みたいなことを書く日が来るなんて。しかし事実なので仕方ない。前髪を切りすぎた。いや正確に言うならば、三十一歳女性によって前髪を切られすぎた。

坊主をやめてからの私は、髪が伸びるたび三十一歳女性にバリカンで毛を梳いてもらっていた。しかし最近ではずいぶん長くなってきたこともあり、女性は「バリカンでやれることに限界を感じた」と行き詰まったバンドマンみたいなことを言い出した。なので我々はホームセンターに行き、すきばさみを購入。女性は「これで鬼に金棒だよ」と連発し、自分を鬼に例えることも厭わない始末。帰宅するとさっそく風呂場で断髪式となったわけだが、すきばさみという新しい道具を手にした女性は明らかに浮ついておったのだ。

そして話は冒頭に戻る。前髪を切りすぎた。ハサミが入った瞬間に分かった。アグレッシブにザクッと切った後、「あっ」という声を漏らしておった。たった二文字の言葉で、私はすべてを理解したことよ。

女性は平静を装って、

「ちょっと右のほうだけ切りすぎたね、このままじゃ変だし左も切るね」

と言ったのだが、みなさんご存知のとおり、これは前髪を切りすぎた時に最もしてはならない発想である。左右のバランスを取るべく切り続けるうちにどんどん前髪が短くなっていくという負のスパイラルが巻き起こり、やがて取り返しのつかぬ事態に追いつめられる。

最終的に、鏡の前には奇怪な前髪を持った男が立っていた。

事件から数日後、三十一歳女性がひとつの理論を提唱しはじめた。

あたしは美容師より大変理論である。

「つまりね、美容師は客の前髪を切りすぎても、その客とずっと一緒にいるわけじゃないよね。客は帰ってくからね。でもあたしの場合、前髪を切りすぎた相手と寝食をともにしてるからね、これはツラいよね、自分の0点の答案を頭に貼ってる人がずっと家にいるような感じだよね、これは大変だよ、こんなに大変なことなかなかないよ、美容師には絶対分からないツラさだよね、ああほんと大変だ」

これを聞いた時、私は息を大きく吸ってから、こう言いましたね。

「知るか!」