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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

突然の電話はろくなもんじゃない

スタバにノートパソコンを持ち込んで大喜利の仕事をしていたら、机の上の携帯が震えだした。三十一歳女性からの電話だった。珍しいこともあるものだ。急ぎの用事かと出ると、「今、スタバ?」と尋ねてくる。完全に行動を読まれており恥ずかしくなる。

「帰りに、神社の横の細い道を通るでしょう」

そのつもりだと答える。なかなか話の全貌が見えてこない。

「あたし、今ちょうどそこにいるんだけどね」

三十一歳は声をひそめた。店内の騒音とは対照的に受話器の向こうでは静かな空間が広がっているようだった。怪談でも話すような口調で三十一歳は「今そこにね」と言葉を継ぎ、しばらく間を空けてから、「たくさん触らせてくれるネコがいるよ」と結んだ。

またもやネコの話である。年号でも変わったかと思わせる大仰な口ぶりで、たっぷり間をもたせて、声をひそめて、電話という文明の利器を駆使して、ネコの話を伝える。耳をすました自分が情けなくなってくる。

三十一歳はそれから、「すごくさわらせてくれる」「人に慣れている」「道端でここまでさわらせてくれるネコは珍しい」「さわらせてくれる」「さわらせてくれる」「すごくさわらせてくれる」と壊れた機械のように連発し、穴場的キャバクラを見つけた中年男性のごとき興奮を見せつけた。

「もうスタバ出る?」

まだ出ないと言うと、受話器のむこうから「はやめに出たほうがいいよ。ネコいなくなるから」という言葉が放たれ、電話は切れた。なんだこれはと思った。ある種の暴力なのではないか。さわらせてくれるネコの情報を一方的に与えられ、まともに返答する間もないままにコミュニケーションは終了したのだ。

一時間ほど大喜利をして、スタバを出た。帰宅途中、例の神社に辿りついた。横道を歩いたが、それらしきネコは見当たらず、一人の老婆が草を刈っていた。セバッ、セバッと慣れた動きで刈っている。手に持った鎌はにぶく光っていたが、こちらには気づいておらず、その背はとても無防備であった。

まさか、これのことじゃないよな。