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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

女は野球ネタが分からない?

居候生活

芸人の世界では、「野球ネタはタブー」と言われている。とくに十代から二十代の女性をターゲットとする若手芸人の場合は御法度だ。「女は野球がわからない」からである。知らないものを題材にして、それをズラしたところで、さっぱり笑えない。以前、そんな話を聞いたが、実際、どれくらい分からないものなんだろうか。

こんなことを考えているのは、三十一歳女性に「牽制」の意味が通じなかったからだ。普通の意味は知っているが、野球用語としての牽制は知らなかったのである。「牽制ってどういうことか説明できる?」と聞くと、

「ビビらせること?」

という、あまりにも曖昧な回答が返ってきたのである。

「誰が、誰をビビらせる?」と聞いても、

「選手が、選手を?」

と、さらに曖昧模糊とした答えしか返ってこない。「野球用語で牽制というものがあるのは知っているけど、意味はわからない」レベルだそうだ。

ということで、三十一歳女性の野球知識を試すべく、知っている変化球の種類を聞いてみることにした。

「変化球だと何を知ってる?」

「ヘンカキュウって、ボールとかストライクとかそういうこと?」(ちがう)

さっそくつまづいた。「ヘンカキュウ」という響きが「変化球」という漢字と結びつかなかったようす。「ピッチャーが投げるボールで、変化するやつがあるでしょう」と説明して理解してもらう。さっそく暗雲が立ちこめた。

しばらく考えた三十一歳女性は、こんなことを言った。

「あの、ジャミロクワイみたいな名前の……」

これは、ジャイロボールのことを言っていたらしい。松坂が投げると話題になっていたから、記憶に引っかかっていたようす。まさか、カーブやフォークをすっ飛ばしてジャイロボールが出るとは思わなかった。

ジャイロボールを知っているなら他はポンポン出るかと思ったが、その後、三十一歳女性は完全に沈黙した。そして三十秒後、ようやく口をひらいた。

「フォーク」

フォークが出るまでこんなに時間がかかるのかと驚くわけである。かなり古い記憶を必死で漁る時の顔になっている。しかもここから再び完全な沈黙が始まった。沈黙、沈黙、ひたすら沈黙である。そしてようやく口をひらいた。

「……カーブ」

カリスマミュージシャンのインタビューでもこんなに沈黙を多用しない。

それから再び沈黙して、「スライダー?」と疑問形でスライダーを出したところでギブアップとなった。「もう出ない」とのことだ。知っている変化球はフォーク、カーブ、スライダー、そしてジャイロボールだった。ちなみに、ジャイロボール以外の変化球は中学の時に体育の授業で習って知っていたらしい。異常な長考も、十五年以上前に学校で習ったことを思い出していたからだと考えると納得できる。

さて、野球にはまだ色んな変化球がある。こちらから名前を出せば、思い出してもらえるかもしれない。そんな期待をして、いくつか変化球を挙げてみた。

シュート

「シュートって、サッカーとかバスケのシュートとは違うの?」

シンカー

「わかんない。適当に言ってないよね?」

ナックル

「実話ナックルズとか……。あと、ケンカの時につけるメリケンサックみたいなやつ?」

パーム

「爆弾?」(たぶんナパーム弾のことを言っている)

全滅だった。むしろ、血なまぐさい方向にばかり連想しているのが気にかかる。とりあえず、このあたりの変化球はまったく分からないようだった。その後、それぞれの変化球がどう曲がるのかを紙に描いて説明しようとしたが、「興味ない」と断られたことも付言しておく。カーブやフォークに関しても、どう曲がるかは分かっていなかった。

以上で今回の記事は終わりだが、最後に一枚の写真を紹介したい。「カーブの握り分かる?」と尋ねた時に、三十一歳女性が自信なさげに作った手の形である。

これを見ながらお別れしよう。

どう見てもキツネだった。