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真顔日記

上田啓太のブログ

目を発光させたネコに殺される

メシを買いにいこうと外に出たら、三十一歳女性が「ウヒョッ!」と言った。とうとう人間としての尊厳を捨てたのだろうかと思うと、視線の先にネコがいた。ネコを見た結果の声らしかった。三十一歳女性はネコ好きをとおりこしてネコ狂いの域に達しているので、人格が壊れてしまうのも無理はない。

「写真撮ろう、写真!」と言われたので、ケータイをだしてネコの御姿を写真におさめた。

なんとカワイイうしろ姿であることか。

うしろ姿だけでもカワイイが、やはりこちらを向いてほしい。その顔を写真におさめたい。三十一歳女性も「もっと近くで正面から撮ろう!」と興奮ぎみだ。ケータイをかまえて、ジリジリとにじりよっていく。

気づいていないのか、人に慣れているのか、近づいても微動だにしない。

「はよ撮らな逃げるよ、 はよ撮らな!」

方言まるだしで急かす女を無視して、息を殺して近づいた。

ぎりぎりまで近づいて、猫がこっちを向いた瞬間、シャッターを切った。

写真にうつったネコは目が発光していた。トラウマになる発光っぷりだった。あわてて実際のネコを見たが、そちらはあいかわらずヨダレが出るほどのかわいさだった。いったい何がどうしたというのか。

「あ、フラッシュ焚いたらこうなるよ」

三十一歳女性が言った。ネコの目はフラッシュに反射して光るため、夜にネコを撮影するとこうなってしまうらしい。ネコ好きのあいだでは常識とのことだった。わけしり顔で説明する女をみながら、「撮れ撮れ言ったの誰だよ……」と思った。

あらためて写真をみたが、さすがに目が発光してるネコはかわいくないし愛せない。

こいつ絶対、目からビーム出してネズミを殺す。ネズミが壁の穴に逃げこんでも、目でスキャンして位置を把握する。ビームで壁を切り裂いて、「逃げても無駄だニャ」と言う。ネズミは恐怖でガタガタふるえだすが、こいつは絶対容赦しない。やさしさなんて持っていない。からだが半分サイボーグだからだ。

まさかのサイボーグ化に意気消沈していたら、女性が「近くから撮るから怖いのかも」と言った。たしかに、遠くから撮れば、目は光っててもかわいくみえるかもしれない。今度こそカワイイ写真を撮るべく、遠くに離れてシャッターを切った。

遠くは遠くで怖かった。ダメだ、目が発光してるネコは、どんな距離から撮ろうと怖すぎる。夜道でこんなネコに遭遇したら泣く。「ごめんなさい」って連呼する。このネコ、あきらかに食物連鎖で私より上にいるし、いちどロックオンされたら最後、間違いなくビームで殺されてしまう。家に逃げこんでもビームで壁を引き裂いて侵入してくるし、ガタガタふるえる私をみて、「愚かな人類だニャ」と言う。

われわれはネコを撮るのをあきらめた。実際のネコはあいかわらずカワイかったが、写真のトラウマがひどすぎて、もはやサイボーグにしか見えなくなった。ネコを素直な気持ちで愛せなくなった。急いで通りすぎたが、途中で何度もふりかえった。ネコがうしろで目を光らせてる気がして。