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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

コンビニおにぎりの最終解答

コンビニで衝撃的なおにぎりを見つけた。

「そうか、その手があったか」と思った。

「考えすぎちゃいけなかったんだ」と思った。

まさかの塩むすび。

最近のコンビニおにぎり業界は、やりすぎなくらい、あたらしい商品を投入していた。客を飽きさせないようにあの手この手をつかって必死だった。たとえばセブンイレブンのおにぎりの商品名。

  • 紅鮭ハラスと大粒いくら
  • 煮込みチャーシュー
  • 帆立バター醤油
  • 手巻たまごかけ風ごはん
  • 焦がし醤油の鮭バター

商品名だけきいても、おにぎりだと思えない。

そんな状況で出てきた塩むすびのインパクトはすごい。まさかの具なし。さらに言うならば海苔すらない。そして、定番から変化球まで様々なおにぎりが並ぶ棚で、いちばん目立っていたのがこの塩むすびだった。なんという皮肉!

コンビニのおにぎりは、「一周」してしまったんだと思った。

ある分野が成熟していくと、内容はどんどん複雑になっていく。あらゆる方向、あらゆる組み合わせが試される。そして複雑さが極まったとき、「シンプル」が登場して人々の胸をうつ。自分たちが忘れていた原点を見せつけられて、人々はハッと息をのむ。

感激した私は、塩むすびだけを買ってコンビニを出た。帰り道、どんな経緯でこの商品がうまれたか想像した。2つのパターンが浮かんだ。

1:なにも知らない若者が既成の価値観を破壊した

新商品開発会議にて。

社員A「『梅じそ高菜チーズにぎり』でいきましょう!」

社員B「それより『アボカド明太チャーハンにぎり』を!」

社員C「どっちも既存のおにぎりの枠を出てません! 海苔じゃなく生ハムでごはんを包みましょう! そして具には高級メロン! 『生ハムメロンにぎり』で新しい時代をつくるんです!」

部長「ううむ……きみはどう思うかね?」

新入社員「よく分かんねーけど、おにぎりは米と塩がいちばんウマいっすよ」

社員A「これだから若者は……」

社員B「おにぎり史の勉強から始めてほしいですねえ……」

社員C「そんなのは我々が何十年も前に通過した場所なんですよ……」

新入社員「いいから食べてみてくださいよ」

部長「これは……! ああ……なんてことだ……! 米と塩だけのおにぎりがこんなにも美味しいなんて……。はじめておにぎりを食べたときのあの気持ちがよみがえってくる……。われわれは具の奇抜さを追求するあまり、おにぎりの本質が見えなくなっていたのか……!」

この場合、塩むすびを考えた社員は若者のカリスマになります。

2:思索のはてに辿りついた境地

後輩「山田さんって、なんでクビになんないんすかね?」

先輩「バカ野郎! あの人、昔はすごかったんだぞ!」

後輩「机でブツブツ言ってるだけで、アイデアも出さねーし」

先輩「あのなあ、おにぎりに初めて『梅』をいれたの、山田さんなんだぜ?」

後輩「そうだったんすか!? そんなスゴい人がなんで……」

先輩「あの人はおにぎりを突き詰めすぎたんだ。あらゆるパターンを考え尽くしてしまったんだ。森羅万象をおにぎりの具材として見てしまったんだ。そして廃人同然になってしまった……。発狂の前日、山田さんがなんて言ったか知ってるか?」

後輩「いや……」

先輩「『宇宙を米でつつみたい』と言ったのさ……」

数年後、山田さんは狂気のはてに死んだ。山田さんの晩年は悲惨なものであった。「おにぎりにエッフェル塔をいれたいんだ」「おにぎりに円周率をいれることは可能だろうか?」「宇宙とは神が握ったおにぎりだったんだ」「俺をおにぎりにいれてくれ、俺をおにぎりにいれてくれ……」。そんな発言をくりかえす山田さんを家族ですら見放していた。

だが、死後に発見された遺書により、すべては一変する。そこには一言、こう書かれていた。

「ごはんに塩をまぜて、にぎれ」

こうして塩むすびが発売された。山田さんの墓には、いまも塩むすびを置いていく人が絶えないという。

パターン1も捨てがたいが、個人的にはパターン2であってほしいと思った。死んでいった山田さんのためにも……。

ちなみに塩むすびの味はふつうでした。