読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

語呂あわせで三十一歳女性と揉めた

居候生活

三十一歳女性とケンカしました。原因は語呂あわせです。詳しく説明します。

三十一歳女性は自転車にダイヤル式のカギをつけている。一週間くらい前、自転車を借りる時のために、その番号を聞いた。1904。これが三十一歳の自転車のカギの番号だった。そしてこれを教える時、三十一歳は、

一休(19)お(0)いし(4)いって覚えればいいよ!!」

と言った。その顔はかなり誇らしげであった。鼻の穴がすごくふくらんでいた。しかし、これが私にはまったくハマらなかった。「一休おいしいってなんだよ。一休は別においしくねえよ」と心は冷めたものだった。ただ、そんなことを言えば家を追い出される可能性がある。なので口では「なるほど」と言っておいた。

一方、私の頭のなかには、1904という数字を聞いた瞬間、別の語呂あわせが浮かんでいた。「一休(19)、零(0)戦で死(4)亡」である。これがすごくしっくりきた。一休が零戦に乗って敵地へ飛び、特攻して死んでゆくさまが、頭のなかにありありと浮かんできた。一休が得意のとんちを捨てて、己の肉体ひとつで戦場に向かっている。それは感動的な光景だった。一休のやつ、ケンカはからっきしだったはずなのに……。

イマジネーションはどこまでも広がっていった。この語呂あわせしかないと思った。完璧に覚えられると思った。

ここまでが一週間前の出来事だ。

昨日、三十一歳の自転車を借りようと思い、ダイヤルを回そうとして手が止まった。番号がまったく記憶に残っていなかった。これっぽっちも覚えていなかった。「なんか、語呂あわせで覚えてたよな」と考えた。しかし、その語呂あわせがまったく出てこない。頭をどれだけ振っても出てこない。

さんざん記憶をほじくりかえして、ようやく「零戦」というキーワードだけが出てきた。肝心の「一休」は出てこなかった。当然だ。一休と零戦、なんのつながりもない。

「零戦、零戦……」と考えるが、この二文字で考えられる語呂あわせは、ぜろ(0)せん(1000)だけだった。これでは番号が「01000」になってしまう。カギとして無意味すぎる単純さだし、そもそも五桁ある。桁数の時点で100パーセント間違っている。

私は三十一歳の帰宅を待ち、「番号なんだっけ?」と聞く羽目になった。三十一歳は「こないだ言ったじゃん!」と叫んだ。前歯がシャーと出てすごく怖かった。「1904。一休おいしい!」と三十一歳は激しい口調で言った。私も反発して、「いや、その語呂あわせで覚えてねーし!」と言い返した。「ハァ?」と、三十一歳の声が裏返った。戦争が始まった。

私は「一休おいしい」という語呂あわせには何の価値も見出していなかったこと、聞いた瞬間に逆の耳から抜けていたことをカミングアウトした。さらに、独自の語呂あわせを作って覚えていたことも白状した。三十一歳は鼻息荒く「どんな語呂あわせなの」と詰め寄った。そこには鬼気迫るものがあった。「一休おいしい」という語呂あわせによっぽど自信があった様子だった。

私は仕方なく、「一休、零戦で死亡」という語呂あわせを披露した。三十一歳は再び「ハァ?」と声を裏返らせた。さっきよりさらに甲高い声だった。「一休おいしい」の代わりに採用された語呂あわせの、あまりのクオリティの低さに衝撃を受けたようだった。すごく不細工な女に浮気されたような顔をしていた。

「ぜんぜん意味分かんないじゃん」と、三十一歳は吐き捨てた。「一休、零戦で死なないじゃん。時代おかしいじゃん」と、しごく真っ当なことを言っていた。そこで引き下がればよかったのだが、私も自分の生み出した語呂あわせをボロクソ言われて黙っていられない。「一休おいしい」のほうが意味が分からないと主張した。そもそもこれは日本語として不完全だ。意味が通っていない。

  • 一休(がなにかを食べて)おいしい(と言った)
  • 一休(の肉を食べると)おいしい

どちらなのか。「一休を食べると美味しい」という意味なら、こんな野蛮な語呂あわせはない。考えた人間のお里が知れる。三十一歳は野蛮だ、野蛮人だ、バーバリアンだ、一休を食料として見るのはやめろ!

まくしたてるように反論すると、三十一歳は「そんなこと言ったら零戦のほうが野蛮でしょ!」と言い出し、そこからは「零戦と食人はどっちが野蛮か」みたいな話になり、近年稀に見るグダグダな議論になり、なにがなんだか分からなくなった。

最終的に三十一歳は、「これからも『一休おいしい』で覚えていく」と宣言し、私も「『一休、零戦で死亡』以外の語呂あわせは考えられない」と断言した。なにひとつ分かり合えなかった。夜、いつもより布団を離して寝た。

以上である。

みなさん、もうお分かりかと思いますが、一応言っておきますね。

語呂あわせで揉めるのは不毛です。