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真顔日記

上田啓太がいろいろ書くブログ

ねごとは寝て言え

居候生活

「ねごとってバンド知ってる?」

三十一歳女性に尋ねられた。知らないと伝えると女はニヤニヤしながら、「あぁーそーなんだぁー」と言った。前歯が二本出ていて、なんだか腹が立った。「あんた絶対こういうの好きだよ」と、ノートパソコンを開きはじめる。YouTubeで聴かせるらしかった。私はこの薦めかたが気に入らなかった。

私は好みを簡単に予測されるほど単純な人間ではない。さらに聞けば、ねごとというのは四人組のガールズバンドらしく、自分がガールズバンド好きだと思われていることに立腹した。この女は何を根拠にそんなことを言っているのか。この野太いモミアゲが目に入らないのか。

「だって、いつもガールズバンドばっか聴いてるでしょ」

この言葉で完全に頭にきて、身体がガクガク震え、拳はワナワナ震え、私のなかの富士山が噴火しそうになったのだが、最近きいた音楽を考えたらチャットモンチーが浮かんだので握りしめた拳がパーになった。ああ、そういやボク聴いてる、ガールズバンド聴いてる。女の子の気持ちをリリカルな詞にのせて歌われたらたまんなく弱いし、興がのった時など、aikoを流して半裸で歌うなどの反社会的行為もおこなっている。

「ガールズバンド好きでしょ」と問い詰められ、「たしかに聴いてるけど、冗談で聴いてるだけ」と反論したが、「冗談であそこまで聴かないでしょ」と一瞬で論破される。たしかに、チャットモンチーなんか四年前から聴いているし、冗談にしては継続しすぎである。こんなに勤勉な冗談はない。冗談なら自転車に乗りながらiPodで聴く必要はどこにもない。ガチである。

女はYoutubeでねごとの『ループ』という曲を流しはじめた。こちらも意地になっているので、絶対に好きにならないと強く誓った。こんなのに心動かされない。鉄の心で耐える。ガールズバンドから遠く離れたものを考えろ。南米の民族音楽のことを考えるんだ。ボンゴだ、ボンゴを叩け、鳥の羽根を頭につけてボンゴを叩く自分をイメージせよ。ガールズバンドから遠く離れて。

「あ、ここサビ、すぐ覚えるよこのサビ」

うるさい、こっちはボンゴを叩くのに忙しいのだ。

脳内で死者を弔う歌を歌っているうちに曲は終わった。嵐は去った。ぜんぜんだ、ぜんぜん良いと思わなかったね、やっぱり俺とガールズバンドって相性悪いのかもね。鼻息荒くまくしたてる二十六歳成人男性に三十一歳女性も愛想が尽きたようで、机に向かって何か別のことをやりはじめた。

私は勝利の余韻をかみしめながらソファに横たわってマンガを読んだ。やがてマンガに夢中になり、ねごとのことは頭から消えた。鼻歌まじりで小部屋に戻った。女がうしろでアァーッと声を出した。

「さっそく鼻歌うつってる!」

私は自分の鼻歌を意識して愕然とした。そう、これはいつか聴いたあのメロディ、正確には、ついさっき聴いたあのメロディ。ボンゴだ何だと言っているあいだも、ねごとは私の無意識にしっかりとメロディーを刻み込んでいた。耳まで真っ赤になった。「すぐ覚えるよこのサビ」という言葉が頭のなかでグワングワンと反響した。自分のなかで何かが弾ける音がした。ちょうど一週間前のできごとだ。

今ではノリノリで歌っています。

Hello!“Z”

Hello!“Z”