真顔日記

上田啓太のブログ

夏の終わりに自分はまた痩せた

ひさしぶりに銭湯にいき、湯につかってリフレッシュした後、脱衣場で体重をはかって驚いた。以前より3kgほど減っている。記憶では172cm・55kgというのが自分の身長体重であり、これでも随分な痩せ形だったのだが、体重計には52kgと表示されたのだ。55kgから52kgへ、貧弱な男としてまたひとつレベルが上がっている。かつて、こんなにも望まれないレベルアップがあっただろうか。

脱衣場には浅黒い肌をしたボクサー体型の若者がおり、ケンカしたら負けると思ったので距離をとっていた。だが、3kg痩せたとなると、この男はもとより、その隣で歯を磨いているガリガリのジジイにすら勝てないのではないか。私とジジイがリングに上がれば、ぽこぽこと間抜けな音をたてた殴りあいが始まり、3ラウンドにわたって空前絶後の退屈なボクシングが繰り広げられるにちがいない。

自分の激ヤセに衝撃をうけた私は急いで服を着た。そそくさと荷物をまとめ、ボクサー体型を大きく迂回して脱衣所をでる。風呂あがりのコーヒー牛乳もすっとばして同居人の待つ平屋へ帰る。玄関をあけて中に入ると三十一歳女性はTシャツ一枚でアイスキャンディをなめていた。その袋にはガリガリくんと書いてあり、私はいよいよ身内まで敵になったのかもしれないと思うが、気を取り直して鏡のまえに立った。

パンツ一丁になり、じっくりと身体を観察する。なるほど、アバラの本数がしっかり分かる。以前は背筋をピンと張ったときにのみアバラが浮きでていたが、今は普通にしていてもアバラが存在をぐいぐいアピールしているのだ。さらに横をむいてみれば胸板は想像以上にうすく、私は人間性に続いて肉体までペラペラになったことに愕然とした。ペラペラでスカスカ、ジジイと互角のボディ、折れそうな手首、頼りない足腰、さらによくみれば乳首のまわりに長い毛が2本。どん底だ、どん底の姿じゃないか。

ドタドタと居間にもどるとアイスを食べおわった同居人が「なんか慌ただしいね」と言った。「ガリガリくん買ってあるけど食べる?」。私は涙目でうなずき冷凍庫からガリガリくんを出して舐めた。ガリガリの男がガリガリくんを食べる。共食いとはこのことか。冷たい氷がいつもより歯に染みた。

共食いを終えると這いあがることを決意した。一刻もはやく体重を増やしたかったが、それはすぐにできることではなかった。自分に今できることをやろう。そう考えると同居人に小さなハサミを借りて乳首のまわりの長い毛を切った。どん底から2センチほど這いあがった気がした。ちょうど、切った乳毛の長さと同じだけ。