つまり何を食ってもうまい

レディーボーデンというところのアイスを食べました。

こういったものです。高級志向のアイスでございます。

写真が完全に空箱で申し訳ありません。撮影しようと思いついたころには、31歳女性および上田によって、すべて食べ尽くされておりました。我々に高級アイスを与えるというのは猿山にバナナを投げこむようなものですから仕方ありません。瞬殺でした。

「やっぱレディーボーデンは違うね、一番おいしいよ」

31歳は知ったような顔で言っておりました。

もっとも、以前ハーゲンダッツを食べた際、「やっぱハーゲンダッツは違うね、一番おいしいよ」と言っていたのを私は覚えております。一言一句違わず、イントネーションまで同じでした。口元の皺の形まで同じだったんじゃないかと思います。なんと軽いナンバーワンであることよ。

「いや、あんたにだけは言われたくないよね」

即座に反論が出ました。

31歳に言わせれば、私は私で、うまいものを食うたびにナンバーワン宣言をしておるそうです。むしろ31歳などマシなほうで、たしかにレディボーデンとハーゲンダッツにナンバーワン宣言をしたことで矛盾が生じているが、そんなもの上田の抱える矛盾に比べれば微々たるもの。上田のナンバーワンのほうがずっと軽い。

ということで、以下、31歳女性が記憶の限りに並べた、「上田の発言集」である。

「ミニッツメイドさえあれば他に何もいらない」

「俺は王将の天津飯があれば生きていける」

「俺は牛角を毎日食べられるような人間になる」

「今日もピスタチオを食べる。昨日も食べたし明日も食べる」

「セブンイレブンではパスタサラダしか買わない」

「セブンイレブンのかた焼きそば食おうぜ」

「スタバではソイラテしか飲まない」

「スタバではいつもアイスコーヒーを飲む」

「ごはんに納豆。これさえあれば何もいらない」

「ごはんにゆかりをかけると最高」

「まぜごはんってすごいな」

「やっぱカレーが一番好きだわ」

「俺は基本的にお茶しか飲まない」

「てりやきバーガーセット、飲み物はオレンジジュースで」

「人間は水とお茶で生きていけるんだよ」

「ちょっとそのジンジャーエールもらっていい?」

まだまだあるらしいですが、その目を見張るような一貫性のなさに、日々、戦慄を覚えているようです。毎日が無自覚な前言撤回の嵐だそうです。どの口であたしを責めることができるんだって感じだそうです。こんなものはもう聞き流すしかないと思っているそうです。

ただ、正直なところピンときません。そんなこと言ったっけな、って感じです。

今はバナナさえあればいいと思っています。

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幹事になれない男たち

ゴールデンウィークの梅田をナメていた。

友人に誘われて、連休に大阪梅田で飲むことになったのだが、行ってみれば人間だらけ。二足歩行の生物があふれかえっておる。まさかここまで大量に人間がいるとは思っていなかった。油断していた。京都の郊外、ノラネコと老人くらいしか見かけない我が町に慣れていたものだから、梅田の状況におもわず面喰らった。

私と友人はどちらも適当な類の人間なので、予約してから飲み屋に行くという発想がない。とにかく目についた飲み屋に入ってしまえばそれで万事うまくいくと思っている。人生で一度も幹事を任されたことがない人間の発想である。

当然、この日も適当に目についた居酒屋チェーンに入ったのだが、これがまさにナメていた、ということである。

「一時間待ちとなっております」

和民も、魚民も、白木屋も、鳥貴族も、どの店の店員も口をそろえて同じことを言った。とにかく待てと、数十分から一時間は待てと、予約をしていないのならば待て、酒が飲みたいのならば待て、ワイワイ騒ぎたいなら待て、そして待てないのならば、酒を飲むのはあきらめて、己の認識の甘さを悔やみながら苦汁を飲めと。

それに近いことを言っておった。

駅前の居酒屋はどこもそのような状態であり、我々はしぶしぶ駅前を離れた。そして適当に歩きはじめた。

「いやあ、ナメてましたね」

友人が言う。その口調にはなぜか危機感がない。

「ナメてたナメてた」

私は同意する。その口調にも危機感はない。

ふらふらと飲み屋を探してあちこち歩き回った。

だが、危機感のない二人が歩いても、空いている飲み屋が見つかるわけないのだ。むしろ我々はすぐに関係のないものに目を奪われ、簡単に当初の目的を忘れていく。幼児が珍しい虫を見つけて立ち止まるのと同じことを大の大人がやっているのだ。神が幹事だったなら雷を落としているところだろう。

「こんなときこそiPhoneを使うべきなのかな」

三十分ほど歩いたところで、私が思いつく。幹事になる人間なら自宅で済ませているであろう作業である。

「ああ、いいっすね」

友人がのんびり同意する。

私はiPhoneでグーグルマップを表示して、「居酒屋」と入力してみた。

途端に、画面は無数のピンで埋め尽くされた。

今思えば、駅周辺で検索をすれば当然そうなるわけだが、予想外の画面に私は異常にうろたえて、頭は真っ白になり、完全なる思考停止状態に陥って、無言でiPhoneを鞄にもどしたのだった。

「まあ、足で探せばいいか」

「そうっすね」

もう三十分もさまよっていることを忘れている。

その後、住宅街に出ては「こっちじゃないな」と気づいて引き返す、ということを何度も繰り返し、もう飲み屋はあきらめて駅前にあった牛丼屋に入ろうか、などと話し合っていたところで、よく分からない場所でよく分からない店を見つけ、よく分からないままに店内に入り、よく分からないままにモツ鍋を食べました。聞いたこともない店でした。

何のモツだか分かったもんじゃありません。

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春なのにグルーニーを着る男

いまだにグルーニーを着ている。

以前書いた「着る毛布」である(参考記事)。凍えるような京都の冬を乗り切るために購入したものだ。それを五月現在も着ている。完全に春なのに、どこからどう見ても春なのに、むしろ初夏の入口に立っていると言ってもいいくらいなのに、着ている。

冬はトレーナーの上にグルーニーを着ていたが、今はTシャツの上にグルーニーだ。あくまでもグルーニーだ。Tシャツの上にパーカーやトレーナーを着てみることもあるが、グルーニーの味を知ってしまった私にはどうも納得がいかない。グルーニーを着ているだけでものすごく心が落ち着いて、穏やかな心持ちになって、顔は菩薩のようになる。

「あんた、一日20時間くらいそれ着てるよね」

31歳女性にそんなことを言われたこともあった。さすがに20時間は言い過ぎだろうと思ったが、考えてみれば、私はパジャマがグルーニーであり、部屋着もグルーニーである。グルーニーを脱ぐのは外に出る時だけだ。そして私が外に出るのは、たいてい長くても4時間ほど。スタバに行った時だけである。

たしかに一日20時間は着ている。スタバに行く時も着れば24時間グルーニーも夢ではない。

「このグルーニー、上田より上田の臭いがするんだけど」

31歳はそんなことも言っておった。上田本体を超える上田臭。上田よりも上田臭い。なんだかグルーニーが凶器のように感じられてくる。犬に嗅がせたりしたらアワを吹いて失神するかもしれない。

さて、私はこのように春になっても愛用するほどグルーニーにハマったわけだが、そもそも買うと言い出したのは31歳であった。この女は自分用に紺色のシックなグルーニーを購入しておった。そのグルーニーはどうなったのか。31歳もグルーニーを愛用するようになったのか。

残念ながら、31歳はまったくグルーニーを着なかった。冬の間ですら着なかった。

昨年11月、グルーニーを買ってすぐの頃、こんな事件が勃発したからである。

これを見た31歳女性は、「あたし、この子にグルーニーあげる!」と宣言した。

紺色のグルーニーは、ネコ用毛布として第二の人生を送ることとなった。今でもネコが使っている。31歳は二回ほどしか袖を通さなかった。グルーニー的には、納得いかないと思う。ネコ用毛布になるため生まれてきたわけではないのだ。

もっとも、上田臭くなるために生まれてきたわけでもない。

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